ライダー・ウェイト版の著作権に関する猫的考察

 「タロット勉強家」のにゃおやしきは、法律の専門家ではありません。法律について公的教育を受けたこともありません。
 ですから、ここに記載する内容は、あくまでも2003年8月時点での私的見解です。内容について、にゃおやしきが正確性を保証するものはありません。でも、にゃおやしきなりに一生懸命に考えた結果です。ご参考まで。

 なお、本ページ作成にあたり、「著作権のひろば」を参考にさせていただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。

1.「ライダー・ウェイト版」とは何か?
 タロットに興味がある人で、「ライダー・ウェイト版」について知らないという人は、いないでしょう。好むと好まざるとに関わらず、現在最も流布しているタロットの1種であり、これに基いた各種のオリジナルタロットが今日も作成・出版されています。
 今、私の手元にあるAGMUELLER社の物は、「RIDER WAITE TAROT」と表記されています。日本では、他にも「ライダー版」、「ウェイト版」、「ライダー・タロット」などと様々な呼び方をします。また、近年は、さらに「オリジナル」というタイトルが付いたものまで販売されています。

 では、本当の呼び方は何で、どういう物なのでしょうか?

 1910年にロンドンのライダー社(RIDER)が発売したブックレット(ブックレットの題名「The Key to the Tarot」)付きのタロットデッキが、その最初です。この時のデッキ自体の名前は「TAROT」でした。
 アーサー・エドワード・ウェイト(Arthur Edward Waite)が考案し、パメラ・コ−ルマン・スミス(Pamela Colman Smith)が作画しました。今で言う「共著」でしょうか。
 これは、1939年頃絶版となったようです。
 なお、ウェイトは、このタロット専用の解説書「The Pictional Key to the Tarot」を1910年に別途出版しています。

 1971年、ウェイトの遺児であるシビル・ウェイト(Sybil Waite)が、ライダー社とともに復刻版を発売しました。タイトルは「TAROT CARDS」。現在流通しているライダー・ウェイト版は、この復刻版が元になっていると思われます。また、この版では、元と同じブックレットは付属していなかったようです。

 では、近年出版されている「The Original Rider Waite Tarot Pack」(U.S.GAMES Sytems社)などの「Original」とはどういう意味でしょう?
 1910年に出版されたものをできるだけ忠実に再現した、ということだと思われます。ブックレットの再添付だけでなく、印刷の悪さ(肌色インクの粒状感まで再現、ただしカードの表面はコーティング)にもこだわっています。

 さて、呼び方について。
 実は、私はこういう「形式」にこだわるのが苦手です。だから、「呼び方なんてどうでもいいじゃないですか。」と言ってしまいたいのですが、そうもいかないでしょう。現時点では、「RIDER WAITE」と表記するのが一般的なようです。日本では「ライダー・ウェイト版」と呼べば間違いはないと思います。

 なお、最近入手したAGMUELLER社製では、「RIDER WAITE(R)」となっていました。(R)は「登録商標」を意味します。外箱の裏にははっきりと自社の登録商標である旨を明記してあります。少なくとも、欧州では「RIDER WAITE」の名前を使って出版等を行うのは難しそうです(AGMUELLER社はドイツの会社です)。

(本稿の参考文献:「秘伝タロット占術」木星王著、大泉書店刊)

注:日本で入手できるライダー・ウェイト版は米国出版のものが多いと思いますが、付属のブックレットはスチュアート・R・カプラン(Stuart R. Kaplan)のものがほとんどでしょう。他にも、イタリアの出版社のものもありますが、私が入手したものはブックレットが付いていませんでした。「オリジナル」が元のブックレットを付けたことは、そういう点でも興味深いです。
2.インターネットサイト上での画像掲載と著作権について
 以前、「カード画像をサイトに掲載していますが、著作権についてどう考えていますか?」という問合せを戴いたことがあります。厳密には、私のサイトのようなカード掲載は、著作権法違反ではないかと考えます。ですから、その時もそのようにお答えしました。

 ただし、私にも言い訳はあります。私は、自分の画像使用を「引用」と考えているのです。「引用」については、著作権法第32条に書かれています。簡単に言えば、公表された著作物を著作者の許諾なしに利用できる範囲が規定されています。
 私の場合、以下の理由により、自分のサイトでの画像使用を「引用」の範疇にあると考えているわけです。

(1)そのタロットデッキを紹介するという目的のためにデッキ中の一部の画像を使用している(本来、紹介だけだと「引用」には該当しません)
(2)どの画像が、どのデッキのものか、引用部分を明確に示している
(3)出所をできるだけ明確にしている(著作者・画家が不明なものもあるので)

 先に述べましたように、私は法律の専門家ではありません。ですから、この解釈が妥当だと言い切れるものではありません。ただ、自分のサイトについては、このような見解で運用しています。

 では、すべてのカード画像掲載が、同様の解釈によって違法性が無いと言えるでしょうか?
 私は、ケースバイケースで、言える場合と言えない場合があると思います。
 たとえば、あるデッキの全画像を掲載している場合、デッキの出所を明らかにしていない場合は、違法性が高いと考えます。

 ある企業サイトで、無料のタロット占いが出来ます。そこで使用しているカードはサイト独自のものでした。さすがに世界最多の特許数を持つ大企業、と感心しました。
 個人サイトの無料コンテンツなら著作権なんて問題にならない、とは言えません。インターネットは公共の場です。誰でも見ることができます。公共放送や出版と同じです。ビジネスであろうと無かろうと、各コンテンツは出版物に準じると考えられます。

 そういう意味でも、サイトを作成・運営する方々は、1度自分のサイトと著作権の関係について考えてみることは必要だと思います。

注:「引用」は境界が曖昧なものです。訴訟沙汰になるケースもあります。安易に主張すべきではないとの批判は甘んじて受けるつもりです。
3.「ライダー・ウェイト版」の著作権はどうなっているか?
 「ライダー・ウェイト版」について、著作権者は一体誰でしょうか?
 大アルカナの「愚者」の旅のように、ここから話を始めたいと思います。

 1項で述べましたように、「ライダー・ウェイト版」の著者はA.E.ウェイトとP.C.スミスです。著作権者としては、これに出版元であるライダー社が加わります。
 つまり、「ライダー・ウェイト版」の著作権者は、この3者です。そして、著作権者の死後は、著作権が有効である間は、その遺族が著作権を受け継ぐことになります。

 では、「ライダー・ウェイト」版の著作権有効期間は、どこまでなのでしょう?

 日本の著作権法では、著作者の存命中および死後50年間、そして、企業が著作権を保有する場合は公表から50年間ということになっています。(映像についてのみ、2003年に改訂・延長されています!)

 では、この法律に従って、考えてみましょう。

 A.E.ウェイトは、1857年米国ニューヨークのブルックリン生れです。1942年に病没。(1940年にロンドン大空襲で死亡との説もあります)2度結婚しており、最初の結婚でシビルという娘が生れています。

 P.C.スミスは、1878年英国ミドルセックス生れ。1951年に病没。生涯独身でした。

 ライダー社は現在もロンドンに実在するようです。実際に、イギリスのオンライン出版社を見ると、ライダー社刊の書籍が販売されています。「ライダー・ウェイト版」の初版は1910年です。

 ウェイトの没年から50年というと、1993年には著作権は切れます。
 スミスの没年から50年では、2002年1月1日に著作権切れとなります。
 ライダー社は、発行が1910年ですから、1961年には、著作権切れを迎えています。

 ということで、単純に計算すれば、2002年には、「ライダー・ウェイト版」に関する著作権は全部有効期間切れを迎えていることになります。
 ただし、この考えには、大きな穴があります。戦時加算というものが抜けています。
 「戦時加算」とは、第二次世界大戦で敗戦国となった日本に対する一種のペナルティーのようなものです。詳しくは1951年のサンフランシスコ平和条約を参照してください。これによると、著作権有効期間を3794日加算する必要があります。約10年半ですね。
 これを加算すると、ライダー社は期間切れで、ウェイト分も遅くとも2005年には切れそうです。問題は、スミスです。2013年に期限が来ることになります。ただし、前述のようにスミスは未婚であり、直系の遺族はいるのか不明です。

 さらに、大きな穴を1つ。以上の考え方は、1910年発行のオリジナル版についてです。1972年発行の復刻版について、新たに著作権が発生したとなると、現在最も流布している「ライダー・ウェイト版」については、ライダー社分については1972年から始めて2023年まで、シビル・ウェイトについては存命中および没年以降50年が著作権有効期間です。シビル・ウェイトについて、あまり資料を持っていないので、現在もご健在かを存じません。
 もっとも、1972年の復刻版とオリジナルとでは、デザインも同一です。ここまで考える必要はないと、個人的には考えています。

 というわけで、「ウェイト・ライダー版」に関する著作権有効期間は、2013年には全部消滅するのではないかと思います。

(本稿の参考文献:「秘伝タロット占術」木星王著、大泉書店刊、「猫背かけ足 占い読本」魔女の家BOOKS刊、新・タロット図解 A.E.ウェイト著 シビル岡田訳 木星王監修 魔女の家BOOKS刊)

注:ただし、これは1971年に施行された現著作権法に則った考え方です。それまでの著作権法ですと、著作権法保護期間が33年なんですが、P.C.スミスの没年が1951年なので、古い法律でも1984年までは有効となります。従って,現著作権法の範囲内にあると判断しました。

注:この項は、米国の著作権有効期間延長の動きを無視しました。ライダー社は英国の出版社ですし、現在問題にしているのは日本国内ですので。ただし、欧州でも日本でも、著作権有効期間は延長する動きが顕著になっています。
4.まとめ?
 大まかに「ライダー・ウェイト版」の歴史と著作権についてまとめてみました。
 今回、何事も事実に基いて、丁寧に調査することの重要性を認識しました。また、最近タロットの歴史について勉強したいと思い、色々と集めているのですが、歴史そのものとなると、ウェイトは新参者になってしまうため、ある程度古い書籍や欧米の書籍では扱われていないように見うけられます。そのため、今回は参考文献が偏ってしまいました。

 そもそも、根が大雑把に出来ているにゃおやしきです。色々調べた上で書き始めたつもりが、あれも調べていない、これも足りない、という状態です。今後、少しずつ補足していくとともに、これを読んでくださった方々からのご意見やご指摘を取り入れていきたいと思います。

 今回の調査で気づいたのは、「オリジナル」と称する「ライダー・ウェイト版」が発行されたのが、ちょうどウェイト分の著作権が欧州で切れる頃ではないかという事です。勝手な想像ですが。
 ただし、著作権が切れたからと言って、好き勝手に画像を使っても良いわけではありません。
 少なくとも、ライダー社、ウェイトの遺族、スミスの遺族には、工業権などが残ります。たとえば、「ライダー・ウェイト版」のコピーを作って売ったりするのは、違法です。
 また、著作権には著作人格権や著作財産権というものがあり、たとえば「ライダー・ウェイト版」を翻案した場合は著作財産権に引っかかると思います。欧米でも日本でも数多くある「ライダー・ウェイト版」を基にしたとしか思えない創作タロットデッキは、どうなっているのか、と考えてしまいました。

 一方で、タロットそのものは、起源もオリジナルも不明であり、公的共有財産と化しています。「ライダー・ウェイト版」も、その公的共有財産に基いた翻案だという考え方もできます。ただし、二次著作物でも著作権は発生しますから、ウェイトたちにも著作権は存在するのですが。

 また、「RIDER WAITE」は商標登録されているようですから、少なくとも欧州では商品の名前等には使用できません。日本ではどうなっているのか調べていませんが、誰も商標登録などしていないことを祈ります。

 タロットが神秘主義者たちに取り上げられるようになったのは、18世紀になってから、フランスのアントワーヌ・クール・ド・ジェブラン辺りからのようです。それからだけでも200年以上の歴史があるのです。細かい事を言わなくても良いんじゃないか、とアバウトなにゃおやしきは、思うのでした。

本稿に追記:2007年時点では、U.S.GAMES SYSTEMS社が、デッキのブックレット先頭の画像等の転載について禁止事項に「レビュー記事を書く場合は除く」趣旨の記載があります。さすがに訴訟大国米国ですね!(2007.04.22)