タロットの系列に関する猫的見解

 「タロット勉強家」のにゃおやしきは、持っているタロットデッキを「ライダー・ウェイト系」だとか、「トート系」などと評することがあります。
 その基準について、ここで明確に記すことにします。あくまでも「にゃおやしきの判断基準」です。しかも、最終的には「全体のイメージ」で決めています。ご参考程度と考えてくださいね。
1.ライダー・ウェイト系の判断基準
 ライダー・ウェイト版は、A.E.ウェイトが考案し、P.C.スミスが作画を担当しました。ウェイトは、いくつかの点で独創的とも言えるアイディアを残しています。
 にゃおやしきとしては、それを踏まえて、判断しているつもりです。

(1)大アルカナの「力(Strength)」が「VIII」、「正義(Justice)」の番号が「XI」

 伝統的なタロットデッキでは、大アルカナの「力」は11番、「正義」は8番です。しかし、現在では「力」を8番、「正義」を11番としているデッキが多く見られます。この順序の変更は、ライダー・ウェイト版からと考えられます。
 ですから、にゃおやしきは、各デッキの「力」と「正義」の番号が、ライダー・ウェイト版の影響を受けているかどうかの目安になると考えています。

 ウェイトは、他にも、「愚者(Fool)」を「審判(Judgement)」と「世界(World)」の間に入れています。「力」と「正義」に比べると、この「愚者」の位置はあまり人気がないようで、こちらの順序を用いているデッキはほとんど見ません。

(2)小アルカナが絵札になっている

 伝統的なタロットデッキの多くは、小アルカナが数札です。ライダー・ウェイト版が「初心者にも分かりやすい」と言われるのは、小アルカナが絵札だからです。
 小アルカナが絵札なのは、ウェイトの独自案ではないようです。15世紀のタロットデッキに、ウェイト版の小アルカナとよく似た絵柄のものが見られます。(15世紀のタロットをLO SCARABEO社が復刻した「ANCIENT ENLIGHTENED TAROT」が有名です)
 しかし、絵札の小アルカナを一般に広めたのは、ライダー・ウェイト版の力が大きいと思います。
 そこで、にゃおやしきは、小アルカナが絵札である場合は、ライダー・ウェイト版の影響を多少受けていると見ます。ただし、小アルカナが絵札であっても、各カードの解釈が全く異なると思われるデッキも多くあります。表現形式の類似性と表している内容の両方に留意しての判断が必要でしょう。

(3)「愚者(Fool)」が髭面ではなく、美青年になっている

 伝統的なタロットデッキとして有名な「マルセーユタロット」は、「愚者」が髭面です。身なりもあまり良いとは言えません。一方、ライダー・ウェイト版の「愚者」は華やかな衣服を着た美しい若者です。
 「愚者」のイメージは、ライダー・ウェイト版の場合、肯定的要素が強いと思います。
 この点にも、にゃおやしきは、着目するようにしています。

クラシックタイプの「愚者」とライダー・ウェイト版の「愚者」の例
Oswald Wirth Tarot Deck     Rider Tarot
 Oswalt Wirthは19世紀末頃のカバリストで、1889年にタロットデッキを出版しました。左側のカードは、20世紀に出た復刻・修正版で背景が金色です。愚者の姿は伝統的で、道化師のような衣装に、ズボンは破れて尻が剥き出しになり、動物(猫?}が足に噛みついています。杖をついた彼の姿は、少なくとも格好良いものではありません。また、カードに番号がついていません。
 右側は、ライダー・ウェイト版の愚者です。左手には白いバラを持ち、颯爽とした無邪気で怖いもの知らずの若者の姿です。
 ウェイトは、オカルト本の翻訳で主な収入を得ていました。英国で最初に出版されたタロット本は、ウェイトの翻訳だそうですが、その本に付属していたデッキは、Oswalt Wirthのものだったそうです。(出典:「秘伝 タロット占術」 木星王著 大泉書店発行)
2.トート系の判断基準
 トートタロットは、A.クロウリーが考案しレディ・フリーダ・ハリスが作画したタロットデッキです。クロウリーは、これを「ライダー・ウェイト版がひどいものだから」という理由で考案したそうです。
 クロウリーは、魔法に手を染める最初の時期にウェイトに心酔しましたが、その後反目しました。自著で、ウェイトのことをこき下ろしているのは有名です。
 トートタロットに影響を受けたデッキは、これらの点にも留意して判断するようにしています。

(1)大アルカナのタイトルが伝統的なものから変更されている

 クロウリーは、いくつかの大アルカナのタイトルを変更しています。ただ、どうも本人は、自分で付けたタイトルには執着していないようです。(出典:「秘伝 タロット占術」 木星王著 大泉書店発行)
 ですから、タイトルそのものよりは、タイトルが変更されているかどうか、を見るようにしています。
 また、「ケルト系」を名乗るタロットは、ケルト民族や民話の用語を使ったタイトルに変更してしまうのが一般的なようなので、これらもトートタロットの影響とは別物と見なければならないでしょう。

(2)小アルカナにタイトルが付いている

 クロウリーは、小アルカナは数札にしましたが、各小アルカナにタイトルを付けました。タイトルが全く同じ、ということではなく、タイトルが付いているかに留意するようにしています。

(3)小アルカナが単純な数札ではない

 クロウリーは、小アルカナを数札にしてはいますが、絵にはイメージを持たせています。ディスクや棒などの「象徴」の並び方や絡ませるモノ、背景などに「表現」が感じられます。具象ではなく、抽象的な表現ですね。
 ただ、近年、小アルカナに抽象表現を加えるデッキは多いので、抽象的な表現を用いているかどうかよりも、表現内容の類似性を見るようにしています。

(4)小アルカナコートカードが、「騎士」「女王」「王子」「王女」になっている

 トートタロットでは、「王」「ページ」が失くなり、代わって「王子」「王女」が登場します。また、「騎士」が最も高位になっています。
 これについては、タロット研究者のアルフレッド・ダグラスが、興味深い考えを記しています。(詳しくは、「タロット その歴史・意味・読解法」 アルフレッド・ダグラス著 栂 正行訳 河出書房新社刊の「第6章 秘儀的タロット−小アルカナ−」を参照してください)

 ダグラス本人が作成したタロットデッキは、ライダー・ウェイト版の影響の強いものでした。したがって、クロウリーが同じ考えで「王」を退場させたかどうかは分かりません。
 ただ、「王女」「王子」になっているかは、トートタロットの影響を見る上では重要な点だと考えています。

(5)「貨幣」が「DISK」になっている

 これは、あまり多い例ではありません。
 伝統的なタロットデッキの「貨幣(Coin)」を、ウェイトは「五ぼう星(Pentacle)」にしました。クロウリーは、これを「ディスク(Disk)」としています。
 「貨幣」は、元々「地」の意味です。「ディスク」は「円盤」「平たいもの」というような意味です。
 にゃおやしきは地球が丸いとされる前の世界観を連想しています。
 「Disk」としているタロットデッキは、紛れもなくトートタロットの影響を受けていると思います。